2007年発売 UNIX MAGAZINE Classic with DVD(DVD4枚付) に書いた記事を再掲。
鷲の驕り (服部真澄)

- 作者: 服部真澄
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 1999/07
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 5回
- この商品を含むブログ (5件) を見る
登場人物であるケビン・マクガイヤとサソウ・ツヨシが、あまりに実在の人物のまんまなので思わず笑ってしまうのだ。冒頭ハワイで開かれるI・NETというコンベンションは、1995年夏の INET '95 からの着想だろうか。翌1996年2月、サンディエゴで ISOC セキュリティシンポジウムに参加している最中にミトニックの逮捕が大きく報道されたことを思い出す。
ミトニック事件と似ているのは2人の人物設定だけで、小説のストーリーは事件と関係なく展開される。それだけに、ここまで似せる必要があったのかという疑問もわくのだが、とにかく事情を知っているとオイオイという感じで導入部を楽しむことができるのだ。
作者の服部真澄さんとは、後の作品「バカラ」についての取材を依頼されてお会いしたことがある。激しい作風からは想像できない穏やかなものごしの女性だった。この時には本作品を読んでいなかったので、ミトニック事件について話すことができなかったのが今となっては残念である。
ミトニック事件については当事者である下村努が書いた「テイクダウン」が出版されている。この中に、下村と一緒にミトニックを追い詰める Mark Seiden というセキュリティエキスパートの名前を見て驚いた。事件よりも10年近く前に会っていたからだ。と言ってもシリコンバレーの Mac ショップで立ち話しただけだったのだが、当時彼は西海岸と東海岸を行ったり来たりの生活をしていて、しばらくニューヨークだから留守の間西海岸の家に住んでてもいいぞと初対面のぼくに言ってくれた。はじめて異国に滞在していた日本人は、その感覚にずいぶんと面食らったものだ *1。さらに、彼は 4.3BSD のマニュアル作成にも関わっていて、4.4BSD の開発のために CSRG と共同作業していた時に Kirk McKusick の口から彼の名前を聞いた。その後1997年に再会して懐かしい話をすることもできたが、今だもって謎の多い人物である。
後記
今年の5月に Kevin Mitnic の話を聞く機会があった。印象としては、随分まともな話をするなあという感じだ。普通のセキュリティ系IT企業の人の話を聞いているような気がした。唯一印象に残っているのは、メーカーに電話して携帯電話のファームウェアのソースコードを手に入れることができたというエピソードだろうか。最後は、騙された担当者がファイルを送ろうとした通信が企業のファイアウォールに止められたのに、わざわざバックドアを開いて取れるようにしてくれたというのだから念が入っている。どこまで本当かはわからないが、こういう話を聞くと技術で解決できることには限界があるなあと思ってしまう。
そういえば、下村努がノーベル化学賞を受賞した下村脩先生の息子だったということでも最近話題になった。僕の中では、1986年に Palo Alto の California Avenue にある ComputerWare に初めて行って Mark Seiden 氏と立ち話をして依頼、10年オーダーの周期を持つ大きなイベントの流れである。
*1:当時彼はサンフランシスコのダウンタウンに住んでいたはずだ。僕の仕事場は Mountain View の Sun だったから、毎日通うのは無理だったなあ。週末だけでも貸してもらえばよかったか。再会した時に、あれは本気だったのかと尋ねたらもちろんという返事だった。その代わりに、どこかに行った時には泊めてもらうのだそうだ。なるほど。