容疑者Xとネオジウム磁石

映画「容疑者Xの献身」の冒頭のエピソードは、磁石を使った犯罪を福山雅治扮する湯川先生が解決するというものだ。湯川先生は得意げに「ネオジウム磁石」を使ったトリックについて語る。これは多分ガリレオシリーズの別の逸話から持って来たものだと思うのだが、そっちの原作を読んだ時に「理系作家」らしからぬ間違いだなあと思ったのを思い出した。それが、映画になってもやっぱり直ってなかった。

ネオジムの英語元素名は Neodymium だから、英語読みするなら「ネオジミウム」だ。日本語のネオジムはドイツ語の Neodym に由来しているらしい。Wikipedia をどこまで信じるかという問題はあるが「ネオジウムは厳密には誤り」と書いてある。もっとも、「ネオジム磁石専門店」と称するサイトのバナーに、でっかく「ネオジウム磁石」と書いてあるくらいだから混乱していることは確か。でも「ネオジウムネオジム)」と書いてあると、ちょっと頭の中を覗いてみたくなる。

作家が一人で書いていて専門分野で多少ボロが出るのはご愛嬌だと思う。でも、映画なんてすごくたくさんの人が関わっているのだろうから、誰も気がつかないということはないだろうに。なぜ、こういうミスが見過ごされて世の中に出てしまうのかが不思議だ。

時代考証家という職業は、多分そんなことをするんだろう。素人なら気がつかなくても、専門家や通人からみると笑われちゃうような間違いが入り込まないようにするのではないか。であれば、科学考証家のような仕事があってもいいはずだ。物理学の話なんだから物理の先生にチェックしてもらえばいいだろう。理系作家の作品にそんなことをするのは失礼だから遠慮したのか。それとも、物理の先生から見ると、どうでもいいような些細なことなのか。

探偵ガリレオ (文春文庫)

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